空き家を使ってまちの拠点をつくる「物件妄想アイデアトーク交流会」–場づくり編–

“空き家や空き店舗を活用して、新たなまちの拠点をつくる” そんな取り組みが、埼玉県内で続々と増えています。

今回は埼玉の暮らしを知ってもらうための「まちの拠点」を創るためのアイデアや事業を考える上でのヒントを見つけてもらえたらと、

埼玉県内でまちづくりに携わっている皆さんをゲストとして迎え、現存する空き物件をお題に、

活用のアイデアや事業企画などを自由に妄想いただく交流会を開催しました。

ファシリテーターは、会場のオーナーでもありAKAI FACTORYを運営する株式会社Akinai代表の赤井恒平さんと、

合同会社本庄デパートメントの早川純さん。このお二人も、飯能市と本庄市それぞれで場所づくりを実践しています。

ファシリテーターのお二人それぞれが活動する地域(飯能市、本庄市)で実際に活用を検討している空き物件を題材としてどんなアイデアが生まれるのでしょうか。

空き家を使ってまちの拠点をつくる「物件妄想アイデアトーク交流会」の様子をもとにお届けします。

ゲストご紹介

・荒井彩菜季(あらいなつき)さん

合同会社LOCUS BRiDGE CMO。元北本市・本庄市役所職員。シティプロモーション、ふるさと納税などのサポートをしている。北本市役所に勤務していた際、まちづくり会社「暮らしの編集室」と共にマーケットを行うなど、行政とフラットな関係でまちづくりに関わるような活動を行っていた。

・小嶋直(こじまなお)さん

建築家。つなぐば家守舎株式会社代表取締役、一級建築士事務所co-designstudio代表。

草加市で、日中にお母さんたちにとって「第三の働ける場所」であるシェアアトリエつなぐばを運営。

・藤村龍至(ふじむらりゅうじ)さん

所沢市出身。建築家、RFA(アールエフエー)主宰。アーバンデザインセンター大宮(UDCO)副センター長/ディレクター、鳩山町コミュニティ・マルシェ総合ディレクターとして鳩山ニュータウンなどまちづくりにも関わる。

<写真左から、荒井さん、小嶋さん、藤村さん>

物件妄想アイデアトーク交流会のトーク内容

赤井

 藤村さんには大きな視点でまちづくりをしている視点、小嶋さんは一つの建物をご自身で事務所を構えながら運営する運営者の目線、荒井さんは元行政職員としての仕組みづくりや外側からサポートする視点、という観点で3名をお呼びしました。

 今日は、ゲストの皆さんは初めて見る飯能市と本庄市の物件ですが、自由に妄想を膨らませながらぜひ、アイデアや活用のタネをたくさんお話ください!

場づくり4

飯能市の物件「新川長」の紹介

木造二階建て、築年数は不明だが約80年ほどと推測される建物
飯能銀座商店街から一本脇道に入った場所/飯能駅より徒歩3分
現況からイメージした間取り図

赤井

 この建物は元料亭だったそうで、その後、旅館、カレー屋という店舗を経て、15年ほど空き店舗になっているそうです。

 飯能は池袋から特急で40分程なので宿泊ニーズがないと言われているんですが、本当にそうなのかな、と僕は気になっています。

早川

 1階は部屋が小分けになっているようですが、壁を抜いたら大きな空間にもできそうですよね。2階も個室に分かれているので、やっぱり宿がよさそうですね。

赤井

 もしかすると、おばあちゃんが住みながら一人で旅館をやっていたのかな。それとも2階は宿泊施設で1階は飲食店とか?色々な使い方が想像できるんですよね。

早川

 赤井さん的には、どうしたいんですか?

赤井

 考えているプランとしては、やっぱりゲストハウスを作りたいですね。

 飯能は駅近くにビジネスホテルが数軒あるくらいで、気軽に泊まれるようなゲストハウスは無いんですよ。だけど需要はある気がしていて…。ゲストハウスって、どうやってやればいいんでしょうか?

小嶋

 この建物だけで完結させずに ”まちやど” 的なやり方にするのも面白そうですね。

 まち全体を宿に見立てて、町に点在するさまざまな拠点に機能を持たせるんです。

 例えば、ご飯を食べれるところはここ、仕事をするためのコワーキングスペースはここ、みたいな。

 そのイメージなら一泊5,000円くらいで需要もある気がします。

藤村

 以前、地方へ出張に行った時に、泊まれるコワーキングスペースを利用したことがあります。

 仕事してそのまま飲んで寝られる、という使い方がすごく良かったです。

 そういう拠点も全国で増えてきているので、宿以外の機能を持たせるのもよさそうですね。

赤井

 面白いですね!飯能の商店街は17時には閉まってしまうお店が多いのですが、宿があれば夜まで開けてくれるお店も増えそうです。

藤村

 飯能銀座商店街は、ウォーカブルなまちに感じます。

 朝9時に店先で一斉にラジオ体操をしている風景を見たことがあるんですが、あれはとても印象的でした。

 宿に泊まった人も一緒にラジオ体操に参加できたら、まさに歩きたくなる町づくりも目指せるのではないかと思います。

荒井

 みんなでラジオ体操する光景は面白そうですね。ここでしか見られない体験があるのは、滞在したい理由にもなりそうですね。

参加者

 私は川越でChabudai Guesthouse,Cafe&Bar(ゲストハウス)を運営しているのですが、

 その目線でいうと、飯能市には自然があるので歩いて川に行けるとか、自転車で回れるとか、そういうニーズのある宿として運営する、というのは一つ可能だと思います。

 飯能市は移住ニーズも高いと思うので、トライアルステイできる場所としても良さそうですね。

 もしくは、2拠点居住のシェアハウスやセカンドハウスとして、東京以外のもう一つの家として部屋ごとに貸し出すというのも良いかもしれません。

赤井

 移住のポテンシャルがある点を繋げられたら、良さそうですね。長期宿泊プランも良さそうです。皆さん、アイデアありがとうございます!

本庄市の物件「三浦屋」の紹介

旧三浦屋、築135年の木造2階建て
JR高崎線本庄駅から徒歩8分。物件の通りは現在は商店街ではなくなっている
昔ながらの長屋の作りで、うなぎの寝床のように奥に細長いのが特徴

早川

 昭和26年から量り売りのお菓子屋をやっていた建物です。ここ10年ほどは空き家になっています。

荒井

 私は本庄市出身なんですが、ここは毎朝通学路として通っていました。地元の人にとっては馴染みのある建物です。

早川

 そうなんですね。最近、2軒隣の建物でNPO法人が焼きまんじゅう屋と駄菓子屋を併設した子供向けの居場所も開いたんですよ。

 この建物の前は車通りも少ない道なので、子供が安心して遊べるのもいいなと思っています。

早川

 現在、本庄市の職員が一般社団法人を立ち上げて借りていて、本庄デパートメントがマーケットを行う時に建物をお借りして会場として使っていたりします。

 1階は土間が続いていて、いわゆる ”うなぎの寝床” になっていて建物の奥が暗いので、それを逆手にとって面白いことができるのでは?と考えています。

小嶋

 すでに借りているなら、みんなで片付けながら使い方を考えていくのも面白いですね。実際にマーケットで借りながら、活用方法を考えても良さそうですね。

早川

 それもいいですね!本庄市は今のところゲストハウスが無くて。

 移住を検討する方から相談を受けることもあるのですが、泊まってまちを体験してもらえる場所が無いのがネックなんです。

荒井

 本庄駅から商店街を歩いて抜けた先にある建物なので、なおさら泊まれると良いですよね。

 ガラス戸で中が見えるので、外から魅せる空間としても使えそうです。

 私みたいに本庄市出身の人にとっては「懐かしい」と思ってのぞきたくなるような空間にしてもらえたら嬉しいなと個人的には思います。

 1階をいろいろと活用できる空間にして、2階で泊まるのも良いですね。

 1階の小上がりのところで早川さんが座って相談に乗ってくれる観光案内所のような使い方も面白そう。

赤井

 建物奥の暗いところは、暗さを逆手にとってサウナとかも良さそう。外気浴もできるし。

藤村

 店舗併用住宅が残っているまちは可能性がありますよね。今、そういう物件がかなり減っていて。

 私はニュータウンのまちづくりに携わることが多いんですが、まずニュータウンには無いんですよね。

 店舗併用だと住みながらお店をやるという手法が使えるので、ローンも組みやすいし、お店をやりたい人を町も迎えやすい。

 立地的にも商店街であったり、周りに建物が密集しているケースが多いので、スモールエリア内で移住者を受け入れやすいですよね。

 飲食店の起業もしやすいと思います。

小嶋

 この建物の中で完結できるのは面白いですよね。事務所でもいいし、それこそ泊まれるコワーキング施設も良さそう。

 真ん中の土間は暗いから、いっそのこと屋外にして中庭のようにしても面白いかも。

 長屋って元々そういう作りでつくられていて、増築や改築などを繰り返していているので、全部が一つの建物だったわけではないという構造も建築家目線では面白いところです。

早川

 働きながら作業ができて、移住相談も受けられて、2階で泊まれる。そんな使い方もできそうですね。

 暗いところは、子供達の秘密基地みたいにしても良さそうです。

赤井

 真ん中の土間を見ていると作業場にしか見えなくて、染物とか色々なことができそうです。

 AKAI FACTORYを運営している視点で見ると、アーティストや作家さんに活用していただきたくなります。入り口側を店舗にして、奥を作業場にするのも良さそう!

参加者

 アーティストインレジデンスにして、2階に住んでもらうイメージで、一定期間展示しながら制作できる空間もおもしろそうです。

 奥の土間まで繋がっているので、お客さんも入りやすいし。本庄市の人がそういう文化に触れる機会になって、子供達がアートの感性に触れられる場所にもできますよね。

赤井

 アーティストインレジデンスって、最終的に制作したものを展示できる場所が必要で、そういった点でも一棟の中でギャラリーと作業場を作れたらよさそうです。

参加者

 もともと量り売りをしていたお店なら、現代版の量り売りのお店をやるのも面白そう!

早川

 皆さん、アイデアが止まらないですね!なんだか妄想が現実的になってきました。たくさんのアイデアをありがとうございます。

フリートークタイムの様子

会の後半では、ゲストに聞きたい質問やトークを聞いての感想などを、自由に聞くフリートークタイムとしました。

参加者:借りたい建物があったとして、実現するまでの壁やアイデアをアイデア止まりにしないコツは何かありますか?

小嶋

 アイデア云々と言うよりも、最終的には誰がやるかが一番大切だ思っています。

 アイデアを自分ごととして捉える人は誰なのか、運営できる人はいるのか。それが実現していく上で、実は一番重要なポイントですね。

参加者:初期投資の際の資金調達はどうしましたか?

小嶋

 私の運営している「つなぐば」の例でいうと、金融機関からの融資と、クラウドファンディングも実施しました。

 資金がないとできないと考えるのではなくて、ないところからどうやって絞り出すのか、考える必要があるんですよね。

早川

 本庄デパートメントも同じで、金融機関からの融資やクラウドファンディングでしたね。

 クラウドファンディングでたくさんの支援をいただけたことは、その後の計画が少し楽になりましたね。

 資金調達でクラウドファンディングが使えるのはかなり大きいし、ファンもそこで作ることができるというメリットがあります。

藤村

 クラウドファンディングは  ”共感を生むストーリーをうまく作る” というスキルが必要ですよね。

 10年前は”コミュニティデザイン”と呼んでボランティアで活動する流れもありましたが、最近はリノベーションスクールや投資型クラウドファンディングなど銀行も投資する体制ができていたり、流れがいろいろ出てきています。

 すでに仕組みは色々と出来ているので、その人がどれだけ共感を生めるかだと思います。

 お金が足りないからクラウドファンディングしています、と書いてしまうのではなくて、プロジェクトリーダーが愛されていたり、一種のカリスマ性が必要ですよね。

参加者:藤村さんの事務所では“公共”と“民間”、どちらのシェアハウスも運営もしていますが、事業継続する際の収入と支出を教えてください。

藤村

 シェアハウスは学生向けなので、継続するためには入居する学生が途切れないようにする必要があります。

 学生は自由なので、継続させるのは中々簡単じゃ無いんですよ。なので、月に一回それぞれの入居者と面談をして、生活指導をしたり相談に乗ったりしています。

 最初の頃は私自身がやっていましたよ。ただ場所を貸すだけではなく、シェアハウスも結局、コミュニティが重要なんですよね。

参加者:空き家活用する上で、気をつける点はありますか?

小嶋

 建築的目線で言ったら、古い建物のシロアリ問題や老朽化はありますね。

 あとは、オーナーさんご家族のトラブルに巻き込まれる可能性もゼロではないです。持ち主であるオーナーさんは良いと思っていても、ご家族があまりよく思っていなかったり、気にしているケースもあります。

 なので、建物だけ見ているのではなく、見えていない思いの部分や、その建物が歩んできた歴史、関わる人たちも同時に見る必要がありますし、大切にしたいと思っています。

藤村

 あと、建築的に真面目に活用しようとすると、だいたいお金がかかりますね。構造を担っている部分を取り替えるとなると、新築するよりも高くなるケースがほとんどです。

 とはいえ、セルフビルドでやると、増築したところから漏水したり、予想していなかった壁が崩れてしまったり…。

 クラウドファンディングで資金を集めて、セルフビルドでやるつもりが、いざ初めてみたら予想以上に費用がかさんだという話はよく聞きますよ。

 僕、小嶋さんに聞きたいんですが、リノベーションする時、どのくらい真面目にやってますか?ニュータウンだと、築30-40年の建物が中心なので、構造や建物そのものは傷んでいないケースも多いんですが、もっと築年数が経っている長屋や古民家など、そうでない場合も多いですよね。

小嶋

 つなぐばを作る時はまさに悩みましたよ。誰も詳細がわからない中、自分で図面を書いては高い見積もりに悩んで、でも実際にやってみるとそこまで工事しなくていいかも、と思い始めました。工事内容を常に判断しながら、なんとか金額を抑えていきました。

 省エネの性能とか、新築の場合だとこだわることが多いですが、リノベーションだとそこまでこだわれないケースが多いですよね。

 建築が専門でない仲間たちと一緒にやっていると、だんだん「ま、いっか」という気持ちに自分もなっていきます。

赤井

 その話を聞いていると、「ま、いっか」の境地がまさにAKAI FACTORYかもしれませんね。専門家ひとりもいない中で、何とかやってしまった部分はあります。

小嶋

 あと、お金がかけられない部分はDIYのイベントをやるのも手ですよ。

 人手が足りないからやるのではなくて、関わってもらうことに意味があるので、わざわざ講師を呼んで学べるイベントととして開催したり、周りの人の意識を変えることが、結果的に今にも繋がっていると思っています。

まちの拠点を作ることは、いろんな人や状況を巻き込むこと

実際に実践者の話を聞いてみると、見えないところで力も抜きながら、楽しく拠点づくりを進めていることが伝わってきました。

空き家を使って拠点を作るということは、その場所・その地域の当事者になっていくということ。

そして、その場所の歴史やストーリーなどを踏まえて地域や周りの人を巻き込んでいくことなんだなと改めて感じました。

埼玉県の新たな可能性や、拠点をつくる楽しさや醍醐味を感じる、賑やかな交流会でした。

(文:榎本千賀耶 写真:埼玉ものがたり編集部)