子どもを育てる環境と、暮らす場所について考えてみよう!–子育て編–

はじめに

「移住」=「住む場所」を選ぶ上で、子を持つ親にとっては “子どもをどんな環境で育てたいか”、“どんな学び(教育)に触れさせたいか” といったポイントは、移住先を決定するうえで重要なポイントとなります。また、子どもだけでなく親自身にとっても、どんな環境で暮らしたいか、周りにどんな人がいたら楽しく過ごせるかを考えることは、移住に限らず、とても大切なことです。

そんな移住に関するお悩みを少しでも解消するために、埼玉県内で子育てや教育をテーマに活動をしている移住サポーターが集まり、「子どもを育てる環境」と「暮らす場所」をテーマに、令和4年12月に横瀬町で開催した交流会の様子をお伝えします。

ガラス張りの開放的な空間が広がる『NAZELAB(ナゼラボ)』

今回会場としてお借りした『NAZELAB(ナゼラボ)』は、学校でも家でも塾でもない “第三の居場所づくり” の一環として、秩父郡横瀬町に令和4年7月にオープンしました。

小中学生向けの学びや機会を提供する場として運営され、横瀬町の自然をフィールドとした野外活動や、子ども達の”知りたい” 、“やってみたい” を追究し新たな知を生み出す研究活動、子ども達の世界観を広げるサイエンス関連のワークショップなど、「知」の探究と自発的な学びを駆動することをコンセプトにさまざまな活動が展開されています。

ナゼラボを運営するのは、同町で『森のようちえん タテノイト』を運営する舘野さんご夫婦。

令和元年に奥さんの地元である横瀬町へ移住し、自然環境をいかしながら教育における選択肢を広げています。

当日は、そんな舘野さんが普段、森のようちえんやナゼラボの活動で実践している横瀬町の自然散策ツアーをアテンドしていただきました。

横瀬町の自然散策ツアー

 

ナゼラボから少し歩くと小さな川が流れていました。夏場はここで水遊びをすることもあるそう。


 

川を渡った先には、横瀬町で有名なロケーションスポット『寺坂棚田』です。

都会から参加した親子も多く、気持ちよい空気を存分に味わっていました。


 

舘野さんに案内されるがままに、一向はだんだんと山の中へ。


 

大人たちは久しぶりの山登りにヘトヘトしながらも、親子で協力してゆっくり山道を登っていきます。

道すがらで、お気に入りの枝や葉っぱを拾う子どもたちも。


 

山の頂上に着くと、そこにはなんとタテノイトの秘密基地がありました!


 

子供たちは大はしゃぎ。


 

親子それぞれに休憩しながら、森の中で思い思いの時間を過ごしました。

舘野さんが作った足掛けの木登りにも挑戦。


 

大人も子どもに負けじと木登り。

ENgaWAのランチ

1時間強の山登りを終えて、ナゼラボに戻った一向を待っていたのは、横瀬町が運営するチャレンジキッチン『ENgaWA』さんのオリジナルカレーです。

ハイキングで打ち解けた参加者同士でおしゃべりしながら、ランチ休憩をとりました。

 ついつい腰を下ろしたくなる大きな階段でランチをとる親子も。

室内は光が入り込み、ポカポカ暖かい空間でした。

ランチのあと、子供たちは自然と絵本タイムに入っていきました。ナゼラボの開放的な空間と面白そうな絵本の数々が好奇心をそそるのかもしれません。

交流会

子供たちが静かに絵本を読んでいる間に、大人たちは円になって集まり交流会を行いました。

参加者の皆さんの興味関心は、子どもを育てる環境や教育をどう選んでいくか、その一方で、自分のやりたいことや仕事と子育てをどう両立していくかの2点に集まりました。

 大人だけ集まって円になり、交流会を行いました

子どもを育てる環境や教育といった面では、まさに舘野さんがお子さんの教育環境を考えて横瀬町に移住しているので、お話を聞いてみました。

タテノイトを運営する舘野さん

「不登校とか居場所の話もでていましたが、僕は学校教育だけじゃない学ぶ場があったらいいなと思っています。

娘を育てていく過程で、自然環境が豊かな場所で子供らしく過ごせる場所をつくりたいと思い、横瀬町に移住しました。

タテノイトもそうだし、ナゼラボもまだ出来たばかりなのでこれからですが、家でも学校でもない、第三の居場所になれるように育てていきたいと思っています。

フリースクールというと、学校と対抗しているように見られることもあるんですが、そうではなくて、一つの選択肢として、学びの場も多様性があることが重要だと思っています。

横瀬町は田舎なので人数も限られているし、教育という面での選択肢は決して多くはないです。

だけど、地域にコミュニティがあることで、みんなで子どもを見守れたり、場所があることで人が集まれる居場所になったり、学びの選択肢も広げられるんじゃないかと思っています。」(舘野さん)

 松村さん(左)の想いからコンセプトが生まれた『つなぐば』トークで盛り上がります

また、自分のやりたいこと、仕事と子育てをどう両立させるかといった点では、松村さんの意見が印象的でした。

「つなぐばを始めるとき、子どもを預けて自分のやりたいことをやるのは罪悪感もありました。

自分の母親は専業主婦だったので、”結婚したら家族のため、自分のことは後回し” っていうのが呪いみたいにあって、ずっと葛藤していました。

だけど、いろんな人と話すうちに、お母さんが笑顔じゃないと子どもも笑顔にならないし、母親の働いている姿を見せるのもいいことだという価値観に触れることがあって。

私と同じように感じている人が地域にもいるかもしれない、それならやる価値があるなって思ったんです。

実際にはじめてみたら、想いに賛同してくれる人が集まって、ひとつのコミュニティができて、結果的に子育てする上でも大きな財産になりましたね。

つなぐばを始める前は、町に馴染みもないし、正直あまり地域が好きになれなかったんですが、今では仲間がいてくれて、ここで子育てできることが安心だって言ってくれる人もいます。

何もない町だけど、子どもにとっては故郷なので、自分の住むまちを好きになってほしいし、だからこそ人と人が繋がって生きていけるのは大事かなって感じています。」(松村さん)
 

スライドで写真を見ながらトークも弾みました

また、自身の助産院で産後ケアや育児相談、夫婦のパートナーシップに関するプログラムを提供している宮原さんからは ”ゆとり” を持つことの大切さも話にでました。

「仕事して子育てして、お母さんもお父さんも日々疲れてるんですよね。そんな環境だと、本当は協力しなければいけない夫婦関係も上手くいかなかったり、不満ばかりが溜まってしまったりします。

なので、まずは美味しいご飯を食べて自分に栄養を与えること、自分にゆとりの時間をつくること、無理しないことが大切だと思います。

親のゆとりが、結果的に親子関係や暮らしにも影響してくるんじゃないでしょうか。」(宮原さん)

 

おかのうえ助産院の宮原さん

参加者からは、やりたいことをやるのに収入面ではどうしているのかという質問もでてきました。

「つなぐばができて4年半経ちましたが、お金はあとから付いてきたというのが正直なところです。

今も収入面で十分に賄えているわけではないですが、お金だけじゃない付加価値を感じてもらっているという点が大きいかもしれません。

僕たちもつなぐ場のような施設を運営したのは初めてだったので、金額設定だったり場所の活用方法だったり、初めは試行錯誤でした。

だけど、ここはレンタルスペースではなくシェアスペースなので、ワクワクすることも課題もみんなでシェアして作っていく場所なんだと理解してもらってからは、逆に利用者さんからもっとお金を取ったほうがいいと言ってもらえることもありました。

とにかくやってみる、上手くいかなかったら見直して改善していくことを繰り返すのが大切かなと思っています。」(小嶋さん)
 

関わる人のニーズに合わせて使い方も変わってきていると話す小嶋さん(右)

「私個人としては、お金の対価よりも、自分の子どもを周りの人たちがわかってくれていて、地域みんなで子育てしている安心感が何より大きいですね。

なので、ここで得たお金も、地域のために、仲間のために使いたいと思っています。」(松村さん)

お金の話では、浅見さんからも人とのご縁が仕事に繋がるといったお話がありました。

「私も最初は夫婦と両親だけで始めたお店だったので知り合いも居なかったんですが、観光協会や商工会などの地域団体や、地域で活動している人たちと知り合う中で、小さなご縁から仕事が生まれているという実感があります。

地域の人たちは地元でお金を循環させたいという想いを持っている人も多くて、ひとつひとつのご縁を大事にすることで、あとからお金も付いてくるのではないでしょうか。」(浅見さん)

交流会では、子育ての話から仕事や移住に関する話まで、幅広く話題が出ました。
これは子育てに限らず言えることですが、自然の近くで暮らしたい、やりたいことに挑戦したいといった想いがある中で大事なことは、自分自身や家族が無理をしないこと、また何をするにも相談できる仲間やコミュニティがあることなのかもしれません。

どれが良い悪いではなく、自分にあった選択肢を見つけることが子育ても仕事も両立させるこコツなのだと感じました。

最後は全員で集合写真!

埼玉移住サポーターのプロフィール

舘野繁彦さん/タテノイト(横瀬町)

ご夫婦ともに地球惑星化学の研究者でしたが、お子さんの誕生をきっかけに保育士資格を取得し、令和元年に横瀬町へ移住。奥さんのご実家が所有していた工場をリノベーションし『タテノイト』をオープン。平日は森のようちえんとして認可外保育施設を運営しながら、月1回はえほんカフェを開く。令和4年には小中学生向けの居場所づくりとして『ナゼラボ』を開業した。

小嶋直さん・松村みのりさん/つなぐば家守舎(草加市)

平成30年に草加市で開催されたリノベーションスクールをきっかけに、使われていなかったアパートを改修して、子連れで働けるシェアアトリエ『つなぐば』が誕生。運営会社として「つなぐば家守舎」を立ち上げ、ともに共同代表を務めている。

浅見敦さん/カフェ「オクムサ・マルシェ」(越生町)

親戚が所有していた納屋をリノベーションし、週末限定のカフェ「オクムサマルシェ」の営業を開始。2年半ほど東京と越生町の二拠点生活を経て、平成28年に夫婦でUターン移住。その後、お子さんが誕生し、現在は家族3人で暮らしながら、カフェやデザイン業などの仕事と子育ての両立に奮闘している。

宮原まりさん/おかのうえ助産院(秩父市)

大学卒業後、都内での病院勤務を経て、青年海外協力隊としてホンジュラス共和国へ3年間赴任。帰国後、秩父市の産婦人科に勤務しながら助産師としての知識を積み、令和1年に『おかのうえ助産院』を開業。母乳育児や夫婦のパートナーシップ相談など、オンラインも活用しながら秩父市内外で活動している。